第4回 ひょっこり八丈島・東京の島酒
伊豆七島の1つである八丈島。面積69.52平方キロメートル、北の八丈冨士(854m)と南の三原山(701m)の二つの山から成り、2万年前に出来た三原山に、1万年前、海底にあった八丈冨士が噴火。全く地質の違う二つの山がくっつき、現在の形であるひょうたん型の島となりました。
1606年に最初の流罪人が流され、1881年に全員放免になるまでの275年間に1900人もの人が八丈島に流されてきました。その流罪人の1人、丹宗右衛門による芋焼酎造りの指導と島の住人の菊池秀右衛門がさつま芋の普及したことによって八丈島に芋焼酎がもたらされました。しかし、1975年の台風による芋畑の壊滅的な被害や、嗜好の変化などによって八丈島酒は麦焼酎が主流になっていったのです。
現在、八丈島には5軒の蔵元があります。島内や東京など本州地区で、昔の島酒・芋焼酎が飲みたいという消費者の要望が高まり、芋焼酎や麦・芋ブレンド焼酎を造る蔵が最近は増えています。“八丈島の島酒”と一区切りにはできないほど、それぞれの蔵には違う気質、こだわりがあります。一致しているのは麹原料で、八丈島酒は麦麹で仕込まれています。
蔵に入ると熟成の進んだバナナと柑橘系の果物を合わせたような醪の香り。すぐにドアを閉めます。ドアの開ける音を聞きつけ、鳩が原料の麦を狙って入ってくるのです。タンクを覗くと、麦醪は芋醪に比べると大人しいのですが、タンクに触るとほのかに温かく、「耳をつけてごらん」という蔵元さんの言葉に従うとぷつぷつと音がします。ああ、頑張っているのだな。美味しいお酒を造ってくれているのだなと思うと、思わず醪に愛情が湧いてきました。もう少しで蒸留という醪は音も聞き取れず、アルコールの匂いが鼻につきました。これを蒸留して寝かせ、割り水して出来上がりです。失礼して出来上がりを一口。ん?甘さが少なく、やや華やかさに欠けます。しかし人を引きつける味わいを持っています。飽きる事の無い、地味だからこそ虜にさせられる。八丈島酒は、飲んだ人だけが分かる魅力を持つお酒なのです。
八丈島、不思議です。空気の感触も、島酒も、人々も何か本州とは違います。沖縄の島々とも違います。まだまだ知らないことばかり。少しでも八丈の魅力を知るべく、もっと見なければ、感じなければ、飲まなければ、なりません。