春秋謳歌

第67回 正月は酒?それとも餅?

第67回 正月は酒?それとも餅?

 年の暮れには忘年会、年が改まると新年会。3月には送別会、4月には歓迎会・・。とにかく日本人は酒の席が好きである。 酒に強いわけではない。世界的にみると弱い部類に属する。酒が飲めるかどうかは悪酔いの原因物質であるアセトアルデヒドを分解できる酵素を持っているかどうかで決まる。日本人でこの酵素を持っている人は60%、全く飲めない人が5%、まあまあの人が35%程度である。この飲める人と飲めない人が一体となって飲み食い騒ぐのが日本式宴会の特徴である。飲めない人にとって酔っ払いの挙動は狂気の沙汰としか思えない。無礼講といえども、こういう輩とつきあわされる下戸はたまったものではない。そこで、飲めない下戸は、何が酒だ、俺は餅や飯の方がいいとなる。というわけで、酒餅論なるものが出てきた。

 この「酒餅論」がにぎやかになるのは江戸時代になってからのことで、その大きな要因になったのが辛口の代表、焼酎王国の薩摩藩というから面白い。日本にはもともと砂糖は無かった。それが18世紀になって琉球経由で薩摩藩から入ってくるようになると、甘口の代表としての餅が登場し、辛党の代表としての酒と論争が始まることになる。思えば、薩摩の料理には砂糖をふんだんに使ったものが多い。甘い餅、甘いおはぎ、甘い醤油・・。昔、薩摩の女性は焼酎に砂糖を入れて飲んでいたという。薩摩の料理は甘いから辛口の焼酎と合うのでしょう、とよく言われるが、辛党の筆者は甘いのが苦手である。

 ちなみに我が家のかみさんは下戸で餅が大好きである。だが酒餅論などあり得ない。「君は餅が好きでいいね」。「あなたは焼酎が飲めていいね」。下戸は餅、上戸は焼酎の、互いに踏み込むことの出来ない世界が確立されているからである。今年の正月も、雑煮を食べて、おせち料理と餅好きのカミさんを前に、黒ジョカ片手に朝酒ということになったが、焼き餅だけは遠慮した。

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