春秋謳歌

第32回 外で飲んでも百薬の長

第32回 外で飲んでも百薬の長福岡市長の命じた1ケ月の「禁酒令」の期間が終わった。米不足に伴う禁酒令は歴史上数多く見ることができるが、不祥事が原因で外での飲酒を禁じる禁酒令は聞いたことがない。酒造会社では社員が飲酒に伴う不祥事をおこせば即刻クビという例はよくあるが、社員全体に禁酒を命じることはない。「人酒を飲み、酒人を飲み、酒酒を飲む」といわれるが、酒に飲まれないようにするのが飲酒文化であり、酒を悪者扱いにするのは筋違いに思えるが、これだけ不祥事が重なると範を垂らすべき立場を自覚させる上では効果があったのかもしれない。よほど腹に据えかねた上でのお灸ということだろうが、お灸の効果がどれだけあったか是非検証してもらいたいものである。

世界の飲酒文化は次の4つに分類されるという(清水新二「酒飲みの社会学」、新潮社)。イスラム社会に代表される「禁酒的文化」、肯定と否定が共存するアメリカに代表される「両価的文化」、飲酒には肯定的だが酔っ払う失態には厳しいフランスなどの「許容的文化」、そしてもっとも酔っ払いに寛容なのが「超許容的文化」で、その代表が日本である。

酒は人と人を結ぶもの(内モンゴル結婚式)

酒は人と人を結ぶもの(内モンゴル結婚式)

日本人は自己抑制の強い人が多く自由な意見を差し控える傾向が強い。ストレスの溜まりやすい日本人は飲酒の機会を通じてストレスを発散させ、人間関係を調整し、欲求不満を解消してきた。そして、たいていの失態が「酒の上のこと」として許される「無礼講」は、不満を雲散霧消させ日本社会の潤滑油としての役割を担い、社会の安定維持のために生まれた日本的スタイルでもあった。だが車社会の到来は「天の美禄」であった酒を凶器に変える事態を生み出した。ストレス社会にあって酒の役割はますます重くなってきているように思えるが、もはや無礼講は通用しなくなった。新たな飲酒スタイルを作りだす時代に入りつつある。福岡市長の禁酒令は家庭で飲めば「百薬の長」、外で飲めば「狂水」と言っているように思えるが、このショック療法が、外で飲んでも「百薬の長」となるきっかけになることを期待したい。

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