第15回 大と小の焼酎蔵がおおらかに個性を競う
大分は気候も地形も地域性に富み、山あいの盆地や段丘地には山系から川が流れ来て、恵みに満ちた里々が美しく開けています。760kmにも及ぶ海岸線は屈曲に満ちていて天然の漁港も多く、海の幸、山の幸に恵まれた、まさに『豊(とよ)の国』です。古代から開け、江戸時代には14の藩と天領となって各地に城下町が栄え、今もその歴史が息づく、文化も多彩なお国柄です。こうした自然と風土に培われた大分気質のもと、この地で誕生した麦焼酎は全国区の本格焼酎となる一方、地元でも豊かに育まれてきました。
まず今や蒸留酒メーカーの頂点に立つ酒造元を訪ねます。九州きって穀倉地、宇佐の田んぼが広がるなか、小高い一画に工場の城塞といった、巨大な建造物群が現れます。そびえ立つ貯蔵場、幾重にもラインが重なる瓶詰め場、巨大な醪タンクが並ぶ醸造場。とにかく大きい。二次仕込みをして2日目という醪タンクを覗いた途端、うわっと後ずさりしてしまいました。まるでタンク全体が一個の生命体のようにさかんに泡立ち、充満していたアルコール発酵の強烈な匂いと刺激が襲ってきます。製造責任者は、手で香りを招き「香りをかいで、様子を見てわずかな違いを感じとっていくんです。規模が大きくても変わらないんです、焼酎造りは」と語ります。「常に自然相手により旨い味わいを造り出す、数値管理の世界ではないんです。この地から湧き出る地下水、そして蔵つき酵母をずっと用いてきましたが、造りはこれでいいと思った時点で後退していく、だから奥が深いんです」。
もう1社の全国ブランドを造る大分の焼酎蔵とで出荷量65万石と、麦焼酎を原料別トップに押し上げていますが、大分には数千石の酒造元がまんべんなく全域にあって、「一村一蔵」といった観があります。
手造りを守り、常圧蒸留で地元産のはと麦を用いた銘柄も含め、親子3代で千石ほどを造る千歳村の蔵元さんは「手造りで納得のいく味わいを造りたいので、今の規模が調度いい」と語ります。「手造りは温度管理がどの段階でも重要です。仕込は10月からで、原料の麦も低温保存しています。水は『荒城の月』誕生の地、竹田の名水百選の水を汲んできています」。
麦焼酎の他にも米焼酎や酒粕焼酎も僅かですが造られていて、土地の恵みを生かして造られる大分の本格焼酎は、おおらかに個性を競っているのです。地元用20度の焼酎は飲み心地、爽やか。刺身やお寿司にも合い、まさに豊の国の味わいでした。