第62回 スイスアルプスでの焼酎ロック
朝夕、めっきり涼しくなってきた。お湯割りのおいしい季節、コップから立ち上る湯気をみながら、今年9月訪れたスイスの旅を思い出していた。
天候に恵まれ、朝日、夕日に照らされ金色に輝くマッターホルンはたとえようのない美しさだった。名峰がつらなるユングフラウでは氷河がまぶしく輝いていた。4810メートルのヨーロッパ最高峰のモンブランは雪山のきれいさに見とれていると次の瞬間には吹雪で何も見えなくなる雪山の怖さを体験した。雪を冠した壮大な雪山のすぐ下にはアルプスの少女ハイジを思わせるなだらかな草原が広がり、牛がのんびりと草を食んでいた。大自然の作り出す壮大な世界に圧倒され、人の営みのちっぽけさを感じ心洗われる気がしたが、ちっぽけな人間社会がこの大自然を破壊しつつあることにも衝撃を受けた。かつて深い谷間を覆っていた氷河が、今は谷底にへばりつくように氷河の残骸が残る光景をあちこちで目にした。
この旅のもう一つの目的は氷河の氷で焼酎ロックを飲んでみることだった。チャンスが訪れたのは世界遺産となっているアレッチ氷河である。スキー客が歓声を上げる中、ロープで仕切られた通路わきには削り取られた氷河がクラッシュドアイスとなって積み上げられていた。このアイスを握りしめるとたちまち氷に変わった。早速、持参したステンレスのカップに芋焼酎を注ぎこの氷を注ぎ込む。アレッ、何も変わらない。氷は氷のままカップのなかで姿を変えない。考えてみれば、外気はマイナス9度。カップも焼酎もマイナス9度に冷えたままなので氷が解けないのも当たり前。結果的にマイナス9度に冷えた焼酎をストレートで飲むのと変わりはなかったことになる。
ホテルに帰ってスイス名産のミネラルウォーターでお湯割りを作ってみた。名水は硬度が高く、暖めると直ちに白濁してしまって使い物にならなかった。我が家でのお湯割りが格別においしく感じられるのも日本の水あってこそのものだったのである。