第35回 大学生と酒
「上戸は毒を知らず、下戸は薬を知らず」という言葉がある。呑ん兵衛は呑みすぎの怖さを知らず、下戸は百薬の長としての喜びを知らないという意味である。下戸からすれば「酒飲みは奴豆腐にもさも似たり はじめ四角で末はぐずぐず」とか、「苦々しきは酒 飲めば本性まで失い 平生よろしき人柄もとほうもないは酒のわざ」となって規制の対象となるが、上戸からすれば「無念無想も酒の徳 憂いを払う玉箒 命を延ぶる此れ薬 飲まんは何の因果ぞや」と余計なお世話は無用で、飲まない人を「あなみにく 賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む」と茶化したくなる。
何が健康に良いか悪いかの線引きは難しい。適量の飲酒は心と体の健康に良いが飲み過ぎが体に悪いのは当たり前。だが、どこからが飲み過ぎになるのかは人それぞれである。それを知るためには体験する必要がある。かつて大学はその体験の場であった。だが今、学内での飲酒は原則禁止、大学祭での飲酒は全面禁止となり、その役割は大きく薄れつつある。先輩後輩とのつながりも希薄になり、酒の功罪や正しい飲酒作法を知る機会も少ないまま社会へ出てゆく。違法行為と知りながら飲まざるを得ず、次第に順法精神は失われてゆく。それなら18歳に飲酒年齢を引き下げて、正しい飲酒作法を身につけさせるほうがいい。規制よりも自己責任のもとに行動できる人材を育て社会に送り出すことがより重要と考えている身にとって、なんとも歯がゆい時代になった。
このような中、焼酎どころ九州で大学生に対する九州本格焼酎プログラムという新しい試みが始まった。大学と酒造メーカー、九州本格焼酎協議会が中心となり、九州の大学生に飲酒に関する正しい知識を学んでもらうと共に、焼酎の魅力を語り、酒ばなれの進む若い人たちを将来の愛飲者につなげようとする狙いもある。これまで宮崎大学を皮切りに、九州大学、鹿児島大学で開催され、好評を得ている。
とかく規制に傾く社会は危なっかしい。