第58回 西郷さんと焼酎麹
2018年のNHK大河ドラマは「西郷(せご)どん」に決まった。
その西郷さんが焼酎屋のためにひと肌脱いだ手紙が残っている。当時、焼酎屋は自分で麹をつくっていたが、明治の新政府になって麹つくりが免許制になってしまったために、外から麹を買わなければ焼酎を造れなくなってしまった。市兵衛さんという焼酎屋は困ってしまってかねて知り合いの西郷さんに相談にいったところ、西郷さんが松本良蔵という人に手紙を書いて仲立ちの労をとったものである。「知人の焼酎屋が焼酎を造れなくなって非常に困っている。直接話を聞いてもらって善処してもらいたい。」そして「この節柄、専売の趣法は決してこれなき訳と存じ奉り候」と所見を述べている。明治の新しい時代になって、専売制という封建的制度はあってはならないことで、撤廃すべきだというのである。この結果がどうなったのかずっと気になっていた。
明治時代の製造帳には「買入麹」の欄があり、明治末年までこの専売制度は続いていたようである。どうやら西郷の依頼に応じる前に西南戦争が勃発し、この依頼もうやむやになってしまったのだろうと思っていた。ところが、明治初期の酒税法を調べていたところ明治6年に「醔麹(しゅうきく)営業税則」なるものが出されていたことが分かった。当時の通達には「醔麹=もとこうじ」とふりがながある。どうやら麹つくりが専売となり、業者に営業税を課したようである。この税は清酒や焼酎などの酒類だけではなく醤油麹にも課せられている。西郷が下野したのは明治6年11月でこの税則が適用された時期にあたる。さらに調べたところ、この醔麹税は明治8年に廃止され、そして西南戦争後の明治13年に復活していることがわかった。そこには西郷の影が見え隠れしている感がある。西郷書簡を受けて、明治8年にこの税則は撤廃となるが、西郷没後の明治13年に復活し明治末年まで続く、と考えればつじつまが合うのである。この経緯は筆者の推測にすぎないが、当たらずとも遠からずと思っている。