第51回 国酒の海外展開に思う
中国の知人が鹿児島に来た時、お湯割りをすすめてびっくりされたことがある。中国では小杯に少しの白酒を入れひといきに飲む。日本ではコップにお湯と焼酎をたっぷり入れ、時間をかけて飲む。中国の知人は一升瓶から豪快にコップに注がれる様子をみて驚いたのである。中国では高濃度の酒を好む。25度の焼酎を生で飲んでもまだ薄い。さらにこれを薄めて飲むのだから理解に苦しむのである。焼酎にとって中国は魅力ある市場ではあるが、現地の人に馴染んでもらうのは容易なことではない。焼酎が国際化するためには現地の食習慣に合わす必要があり、濃度や酒質の検討も避けられず、現状のままで通用するとは思われない。
「ENJOY JAPANESE SAKE」という日本の酒の海外展開を図ろうという国家プロジェクトが始動し、海外試飲会の報道をよく目にするようになった。日本の酒に親しんでもらおうという試みは大切なことである。だが、国を挙げて国酒の輸出促進を図ろうとする姿勢はかつてのWTO(世界貿易機関)の酒税紛争を思い起こさせる。あの紛争はスコッチウィスキーの輸出不振で外貨獲得に悩む英国政府とSWA(スコッチウィスキー協会)が仕掛けたものだった。現在スコッチの輸出金額は6,500億円に上る。日本の清酒や本格焼酎が5,000億円市場なので、清酒の市場に匹敵する金額を輸出で稼いでいることになる。これに対し輸出好調といわれる清酒は115億円程度、本格焼酎にいたっては17億円程度にすぎない。これを見ると海外展開を図ろうという気にもなるが、実はスコッチは英国国内ではあまり飲まれていない。輸出で稼ぐか、国内で稼ぐかの違いである。国内で稼げなくなって海外展開を図ろうとするのは本末転倒と思える。国酒が国酒であるのは国内需要に支えられているからこそである。海外展開の陰で、依って立つ基盤の大切さに対する意識がぼやけてしまうことがあってはならない。