春秋謳歌

第46回 酒のない国に行きたい?

第46回 酒のない国に行きたい? 「とりあえずビール。」「すみません、お酒は置いていません。」「ええっ、ここもないの。」インドネシアの昼食会場でのひとこまである。

 年も押し詰まってくると忘年会の誘いが相次ぐ。これも日本的慣習と思えば無碍に断ることもできないと言いわけしながら、手帳が埋まっていく。たまには酒のない国に行きたい?と思っているところにインドネシア旅行の話が舞い込んできた。ジャカルタからジョグジャカルタへ、そしてバリ島と、インドネシア横断の旅である。インドネシアはイスラム教徒が90%を占める国で当然酒のない旅になりそうだが、たまにはよかろうということで誘いに乗ることにした。

バリ島の焼酎(Arak Spirit of Bali)

バリ島の焼酎(Arak Spirit of Bali)

 日本人同士の会食にはビールや焼酎も出るが、現地で焼酎を手に入れようと思えば一升瓶が13,000円程度はするという。何とも貴重な酒に焼酎がなっていると思うが、1杯50ミリリットルの焼酎をお湯割りにすれば一升瓶で36杯とれる。1杯400円の日本の居酒屋で飲めば1升14,400円の計算になる。毎日が居酒屋と思えば我慢できないこともない。

 大都市のジャカルタではビールは比較的手に入るが、地方の街中ではそうはいかない。延々とバスに揺られてさあ昼食というところで冒頭のやりとりが始まる。通訳の現地男性は、皆一斉に“とりあえずビール”と手を挙げるところが面白いという。異様な光景にみえるらしい。

 聞けば、インドネシアのほとんどの地域で高濃度の酒の生産は許されていないという。バリ島はヒンドゥー教の島なので、ここだけは蒸留酒が造られていると聞いて楽しみにしていたが、一般の住宅街ではビールすら見つけることはできなかった。観光地で見つけた一本の“Arak”が唯一の貴重な土産となった。
旅行中ホテルの部屋で飲む日本から持ち込んだ焼酎のお湯割りが唯一の至福の時であった。酒の飲めない国でつくづく実感した。日本に生まれてよかった。焼酎に囲まれて過ごす生活のなんと豊かで幸せなことよ。

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