第28回 酒食連携
酒に肴は欠かせない。ワインと西洋料理、清酒と和食など醸造酒と民族料理の例はよく知られているが、蒸留酒と食が見事な調和を持っている例はあまりない。その数少ない例が中国、韓国、そして日本である。この3国の酒食を一週間にわたり経験する機会を得た。
四川省の省都である成都は10月というのに蒸し暑く、いつものようにどんよりと煙っていた。じめじめとしたこの土地で発達したのが四川料理と白酒(パイチュー)である。激辛の四川料理が発汗を促し、50度前後の強烈な香気を持つ白酒で野菜や豚肉、鶏肉などの油炒めの油分を洗い流す。白酒は四川料理あってこそのものであって、同じ風土から生まれた酒と料理の強烈な個性が見事に溶け合い、融合していることを実感させられた。
次いで訪れた韓国の料理も四川料理に負けず劣らず辛いものだった。四川料理ほどの脂っこさはないものの、唐辛子の辛さで舌先がぴりぴりとしびれてくる。そこで登場するのが甘ったるい焼酎(ソジュ)である。韓国の焼酎は連続式蒸留機で造られたアルコールを20度近くに薄め、これに甘味料などで味付けしたもので希釈式焼酎と呼ばれる。アルコール度はそれほど高くなく、単独で飲むと甘ったるいだけのように思えるが、ピリ辛の韓国料理にはよく会う。
強烈な個性どうしが醸し出す調和の世界が中国と韓国の飲食文化とすれば、日本の飲食文化はいささか趣を異にする。日本食は新鮮な素材の自然の風味を大事にするところに特徴がある。酒の肴も定番は、豆腐、刺身、野菜、おでん、焼魚などあっさり系が多い。日本の焼酎も中国白酒や韓国焼酎に比べるとあっさり系である。強烈な香気や甘さはない。アルコール度も低い上に、さらにこれを水やお湯で割って飲む。新鮮な素材の味わいを損なわない穏やかな風味の焼酎が日本食にはよく合っているのだろう。
蒸留酒と食の連携において世界を代表するこの3国は、それぞれの国内において酒と食の見事な調和を作り上げてきたが、国境を越えてこの3国間で融合することはなかった。酒と食が風土と民族性の結晶であればこそである。