第24回 タイ米と泡盛麹は恋人
久しぶりに沖縄を訪ねた。北国と変わらぬ今年の鹿児島から出かけると、とにかく暖かい。泡盛はこの暑い南国の気候なくしては生まれなかった酒である。泡盛は米焼酎の一種だが、米麹だけを原料とし、後で蒸米を加えないところに特徴がある。清酒にしても本格焼酎にしても、麹は別に加えられる主原料と組み合わせて造られる。本格焼酎は原料の個性を大切にする酒だが、その原料の個性とは麹以外の主原料由来の特徴を意味する。
泡盛だけが、昔から米麹だけを原料にして造られてきた。それだけに麹つくりと原料米に対するこだわりは強いものがある。蒸米と米麹では香味が異なる。麹が生えることにより米とは異なる米麹の風味が生まれる。米と米麹は別な原料と捉えられているため、本格焼酎の米焼酎では、「米、米麹」とそれぞれ別々に表示することになっている。
製造の主役はタイ米と泡盛黒麹菌である。全部が米麹の泡盛は麹用米に対する要求も異なる。麹が繁殖しすぎる柔らかい性質の米では麹のニオイが強く出すぎる。糖化力が強すぎても発酵管理がうまくいかない。焼酎麹の特徴であるクエン酸も全麹の泡盛ではそれほど多くを必要としない。そのために選ばれたのがタイ米であった。タイ米は水をあまり吸収しないために蒸米は硬く麹の増殖もおだやかである。黒麹は通常、真っ黒の麹に出来上がるが、泡盛ではせいぜいネズミ色程度の色で十分である。芋焼酎ではタイ米が水を吸いにくい性質を逆に利用して、一度蒸した米を冷やして散水し、もう一度蒸し、適度の蒸米水分を得る二度蒸しの技術が多く用いられているが、泡盛では二度蒸しの必要がない。全麹ゆえのタイ米を生かす工夫といえる。泡盛業界がタイ米にこだわる所以がここにある。
7月から米トレサ法と呼ばれる法律により米の原産国表示が始まるが、泡盛に適した原料米を探していたらタイ米に行き着いたということであり、泡盛にとってタイ米は必須なものであることを忘れてはならない。泡盛5年古酒の淡いバニラ様の熟成香と上品なまろやかさは絶品であったが、これはタイ米と黒麹の恋の味なのである。