第33回 焼酎マイスター
鹿児島大学では焼酎学講座が開設された平成18年から22年までの5年間、焼酎を中心とする地域産業の担い手育成を目的として、社会人を対象に「かごしまルネッサンスアカデミー」を開講してきた。「食の安全管理コース」、「経営管理コース」、「健康、環境、文化コース」の3コースの修了生は、延べ250名にのぼる。
修了生はそれぞれの分野で活躍しているにもかかわらず、本格焼酎市場は急激な芋焼酎市場の拡大のあと、現在沈滞状況にある。その背景にあるのは、社会情勢を受けて廉価な酒にシフトしていったからだけではない。大事な情報が正確に伝わらない状況になっていることが将来に暗雲を投げかけている大きな要因であるように思える。
小売免許の自由化により、ディスカウントストア、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、量販店などに次々に販売免許が下ろされ、それまでの町の酒屋は存亡の危機に晒される事になった。地域に根ざし、商品の特性を説明し購入して貰っていた対面販売の小売店は次々と姿を消して、陳列棚から価格をみて購入するスタイルへと変わっていった。語るべきものをどれだけ持っているかで酒の価値は決まる。語るべきことを伝えられない販売形態への転換は、焼酎文化の衰退につながりかねない。
今大事なことは、消費者と直接接し、あるいは直接情報を発信する人たちの養成であると考えた。そこで、鹿児島大学では今年7月から、消費者との接点に位置する社会人を対象に、焼酎に特化して、焼酎に関する専門的知識を有する人材を育成する「焼酎マイスター養成コース」を立ち上げた。有料にして、毎週土曜日、そして年間120時間の講義を受けるというハードなものにも関わらず、応募者が殺到したのには驚いた。30人の定員を募集開始わずか1日にしてオーバーしてしまったのである。
消費者は情報に飢えている。飲むだけでは物足りない。酒の知識、楽しさ、深さを知ることが、大げさにいえば人生を豊かなものにしてくれることを知っている。この関心の高さに本格焼酎はまだまだこれから、と意を強くしている。