第33回 試行錯誤の芋焼酎造り
広島県、宮島口から海に浮かぶ朱色の大鳥居をフェリーから眺めながら約10分の旅、日本三景の1つ、宮島にやってきました。厳島神社ではちょうど白無垢に身を包んだ花嫁さんが朱の橋を夫となる人と共に静々と渡ってゆきます。白と朱と海の青、全てが輝いて見えたのでした。
昨年暮れに宮島(宮島町)は合併し、廿日市(はつかいち)市となりました。廿日市唯一の蔵元さんにお話しを伺ってみました。「日本酒に使用される柱焼酎は昔からあったとは思いますが、中国地方、広島では本格焼酎の文化、歴史は新しいものです。蔵では本格焼酎、日本酒、清酒、みりん、焼酎甲類、原料用アルコールと様々なものを製造しているのですが、本格焼酎がメインというわけではなく、アルコールや甲類が主。しかし何十年も前から地元の人は何故かうちの甲類ではなく、本格焼酎で割ったサワーを飲むことが多いのでした。しかも、焼酎は他県の本格麦焼酎。おもしろくないですよね。だったら地元であるうちで造った本格焼酎を飲んでほしいと思いました」
甲乙混和に使う乙類焼酎、清酒、または他の村、町の特産品で本格焼酎を造ることに協力していたので本格焼酎の製造知識があったと蔵元さんは言います。「最初は九州から芋を取り寄せて製造しました。次の年は広島県産の様々な種類の芋を掻き集めて、そして今回、あえて本場とは違う、紅あずま(食用で有名)を広島県内で栽培。収穫期の9~10月は良い芋が取れました。しかし11月に入り、寒くなってくると芋がどんどん悪くなり始めたのです。表面は分からないのですが中が腐るのです。鹿児島より寒く、貯蔵する技術も無い。しかし1つでも悪い芋が入るとでき上がった焼酎は全然違うものになってしまう。ですから社員総出で、芋を全部割って調べました」。広島で造られた芋焼酎、消費者にどう思われるかが知りたかった、と蔵元さん。製造したものはほとんど広島県内で販売し、念願の『地元で飲まれる本格焼酎』の製造を果したのでした。
「今、広島、中国地方では本格焼酎は追い風が吹いていると思います。まだまだ確立されていない製造法、試行錯誤しながら育て上げてゆく赤ちゃんのようなものです。私達からしたら九州を追いかける立場。追われる立場より楽だし、楽しいのです」
本場でないからこそ冒険ができ、そこから素晴らしいものが生まれる事もあります。中国地方、広島県。そこでは蔵元さんの初めての子育てが真っ最中なのです。