第64回 焼酎神社を見つけた?
鹿児島県南さつま市のNPO法人から“神話と焼酎”の題で講演を依頼された。この演題を与えられたのは南さつま市が七つの蔵がある焼酎の産地であり、また神話のふるさとであるからである。思えば、酒の神社は各地にあるがいずれも米から造る清酒の神様であり、焼酎の神社ではない。そこで焼酎神社にふさわしい祭神はどなたなのか、調べてみた。
神話ではニニギノミコトがアマテラス大神から三種の神器と神聖な稲穂を授かり高天原から降臨し、高千穂の峰に降り立つ。そして笠沙の御前で木花咲耶姫命(コノハナサクヤヒメ)を見初め結婚する。この“笠沙”が南さつま市にあり、黒瀬杜氏の故郷としても知られる。木花咲耶姫命は一夜で妊娠し、疑いをかけられた姫は、疑いを晴らすため産屋に入り出入り口を壁でふさぎ自ら火をつけ、燃え盛る火の中で3人の子供を出産した。
天孫ニニギノミコトの子の誕生を喜んだ父の大山祇神(オオヤマヅミノカミ)は、神聖な米で芳醇な酒を醸し3人の子の誕生を祝ったことから、大山祇神と木花咲耶姫命は酒造の神様となっている。ただし、これは米から造る清酒の神様である。だが、燃え盛る火の中で生まれた3人の子には、火照命(ホデリノミコト)、火須勢理命(ホツセリノミコト)、彦火火出見命(ヒコホホデミノミコト)、といずれも“火”がついた名前であり、蒸留酒の神、焼酎の神様と呼んで差支えなかろう。ちなみに火照命が海幸彦であり、彦火火出見命が山幸彦である。山幸彦は豊玉姫命(トヨタマヒメノミコト)と結婚し、その孫が神武天皇である。豊玉姫命は海の神の娘であり、焼酎でいえば海外文化をもたらした海の神と考えることができる。海の彼方からもたらされたのが、蒸留技術であり、サツマイモであった?、となれば、焼酎神社の祭神にふさわしいのは、火の中から生まれた3人の御子と豊玉姫命の4神ということになる。
実は、この4人を御祭神とする神社が南さつま市にある。竹屋(たかや)神社がそれである。