第11回 醪〈もろみ〉、シャボン玉のごとく 黒糖焼酎
深い原生林に続く道路を車で走っている途中、雨が降ってきました。車から出て外の匂いを嗅ぐと晴れの時よりもずっと濃い緑と土の匂い。亜熱帯の木々が生き生きしています。植物に負けてはいられないとこちらも栄養を、奄美大島の名物料理、鶏飯(けいはん)です。暖かい御飯に錦糸玉子、鶏肉、パパイヤの漬物などをのせ、鶏スープをたっぷりとかけます。少々濃い目の味付けの具とご飯が熱いスープによって混ざり合い、絶妙なコラボレーションを醸し出しています。「鶏飯はお酒の締めにもいいし、二日酔いの時でもあっさりしているから食べやすい。酒飲みの朋〈とも〉だよ」と蔵元さん。食後は黒糖焼酎蔵を案内して頂きます。
植木の少ない駐車場を抜けて(去年の台風でほとんどの植木が飛ばされてしまって、未だにその木々は行方不明とか)蔵の中に入ると、黒糖の甘い香りに少しすえた様な匂いがします。ゴゴゥゴゴゥと湯気を立ててパイプから茶色い液体が凄い勢いで出ていて、近づくと一段と甘い香り。蒸気で溶かした黒糖をタンクに入れているのです。適温に冷まし、米麹から仕込まれた一次醪に加えます。白く綺麗な一次醪と濃い茶色の二次醪。淡と濃の色のコントラストが鮮やかです。黒糖液は元々液体なので、今までの麦焼酎の二次醪や泡盛の醪と違い、トロッとしていて発酵の泡が大きく、シャボン玉のようです。甘い匂いに誘われて「良い香りですね、飛び込みたいくらいです」と言うと「そんなことしたら醪から発生しているガスで即死だよ~」と蔵元さん。代わりに出来上がった黒糖焼酎を試飲させてもらいました。香りは甘く柔らかですが、どっしりとしたコクもあり、皆でワイワイ飲む焼酎というよりは、特別な人とゆっくり楽しむためのお酒という印象を受けました。
2005年7月現在、奄美群島の8つの有人島のうち、黒糖焼酎蔵は大島に10蔵、徳之島に7蔵、沖永良部島に7蔵、喜界島に2蔵、与論島に1蔵、合計5島、27の蔵元があります。
特に女性に人気と言われる黒糖焼酎。奄美群島の神様も女性が崇められ、奄美島唄では島の人々の生活やメッセージが残されています。その島唄も女性の高い声に合わせて男性がキーを上げて歌うそうです。女性を崇め、女性の好む黒糖焼酎を生んだ奄美群島。お嫁に行くならば、奄美がいいかもしれない…。と一人言。
これも黒糖焼酎の魅力の成せる技なのでしょうか。