第19回 酒と食の都の本格焼酎、歴史を刻む
古来より続く酒と食の都、京都に着きました。日本を代表する酒どころ、伏見に向かうために観光案内所へ。そこで京美人に「どちらへ行かはるんですか?」と流れるような京都言葉で聞かれ、ドキッとしてしまいました。近鉄京都線で一本。桃山御陵前駅に着くとそこはもう伏見の中心です。商店街の路地裏に、ふと気がつくとこじんまりとした泉が湧き、住民の水飲み場となっています。この伏見の水、伏水が長い歴史とともに日本酒、本格焼酎の造りを支え続けてきたのです。
「灘のミネラルを多く含んだ硬水と違って伏見の水は中硬水です。そのためゆっくり発酵し、淡麗で柔かな日本酒が造られてきました。本格焼酎も個性を出すと言うより、細やかな、優しいものにしたい。そこで吟醸粕を使い、低温減圧蒸留によって香り高く幅のある米焼酎(粕取り焼酎)を造っています」と蔵元さん。個性を主張しすぎない焼酎だからこそ素材を生かした薄味の京料理とも合うのでしょう。
近畿地方の本格焼酎の歴史は江戸時代から日本酒の製造過程で用いられた柱焼酎(主に粕取り焼酎)の存在が大きく、1686年頃に書かれた『童豪酒造記』では柱焼酎によって「味がしっかりとして良くなり、腐造しにくくなる」と記されています。ここ伏見、灘の二大酒どころもやはり日本酒があったからこそ、焼酎があると言えるのです。
それではもう1つの酒どころ、灘へと向かいます。兵庫県西郷、御影郷、魚崎郷、西宮郷、今津郷の5つの郷を「灘五郷」と総称し、神戸市灘区大石から西宮市今津に至る沿岸12kmの地域を指します。大阪の梅田駅から阪神本線で約30分。車窓からは下町風情溢れる町並みを眺めながら灘五郷の中心地、魚崎郷に着きました。蔵元さんに米焼酎について伺うと、「最近は健康ブームもあり、食用としての酒粕に対する一般消費者の人気が高まっています。もともと酒粕は他の本格穀物焼酎より原料コストが掛かっていたのですが、需要が大きくなり、最近さらに酒粕の値段が高くなっています。将来的に、うちでは粕取り焼酎が無くなってしまう可能性も否めません」と語られました。
京都に帰り、京料理と一緒に伏見と灘の本格焼酎の飲み比べをしながら、近畿の本格焼酎の製造について考えてみました。お湯割にした2種の日本酒蔵の米焼酎。酒粕の独特の香りが鼻をくすぐり、心地よい気持ちにさせてくれます。この美味しさはこれからも酒と食の都の歴史に刻み続けられるに違いないと、確信せずにはいられませんでした。