第30回 宇宙からの便り
宇宙に打ち上げた焼酎酵母と焼酎麹で造られた焼酎を飲もう、という鹿児島大学と鹿児島県酒造組合の共同プロジェクトが進行中と本稿に書いたのはちょうど1年前のことである。延期に次ぐ延期でヤキモキさせられたが、スペースシャトル「エンデバー号」の最終フライトで微生物たちが宇宙へ飛び立ち国際宇宙ステーションに16日間滞在して帰還したのは昨年6月1日だった。帰還後、大学での試験醸造を経て、9月にプロジェクトに参加した12社のメーカーへ希望する菌が配布された。打ち上げた量はわずかでも、この微生物たちは同じ性質を持つ子供たちをどんどん増やしてくれるからありがたい。
待望の商品化が実現したのは今年1月末のことである。「宇宙だより」と命名されたセットは、五合瓶12本セットで2万400円という価格にもかかわらず、発売と同時に予定していた2000セットが完売してしまった。宇宙ロマンと焼酎ロマンの相乗効果の大きさと、焼酎の持つ情報発信力のすさまじさにあらためて気づかされた思いがした。大宇宙を旅してきた微生物たちの子供が作り出したショウチュウ(小宇宙)の世界に思いを馳せて飲んでもらいたいものである。
思えば焼酎の世界は夜空の星空に似ているところがないでもない。昼間の太陽や夜の月明かりが焼酎の中のアルコールと水とすれば、夜空の星々が焼酎らしさを作り上げている微量成分ということになる。同じ星空を眺めていても、見る人によって感慨は異なる。ある人はこの焼酎はおいしいと言い、ある人はクセが強いという。季節や時刻によって星空が変わる。酒も飲む場所や雰囲気により趣が異なる。何より、星空は暗い夜空を明るく彩り、酒は俗塵を吹き飛ばし落ち込んだ体に鋭気を与えてくれる。酒にしても夜空の星にしても、命なきものの方が限りある命を持つものよりも夢と力を感じさせる場合がある。
宇宙旅行をした微生物たちが宇宙空間の静寂の中で思ったのは何だったのだろう。輝く星々たち、光を浴びて水色に浮かび上がる地球を見て、光り輝く未来への希望のメッセージを届けに帰還したものと信じたい。
これからも夢ある焼酎の世界をどんどん掘り起こしていきたいものである。