第17回 際立つ個性。異彩放ち・新風起す
雑穀焼酎の故郷、高千穂は延岡から高千穂鉄道で約70分。高千穂鉄道は山々と五ヶ瀬川の渓流が絵のように美しい風景を織りなす中、高千穂に着きます。一帯にはそば焼酎最大手の蔵元の工場の他に、4蔵があり、その中には個性的な味わいを造る、1831年創業の県内最古の手造りの小さな蔵もあります。
訪れた高千穂町岩戸の蔵元は、昭和30年当初は米焼酎を、6年後にとうきび焼酎、50年代にそば・麦焼酎を、近年では芋焼酎も手がけています。新技術を導入し次々と新原料を採り入れてきた半世紀に、この地の焼酎造りの歴史が写し出されています。
原料の安全性と品質にこだわり、麦焼酎も100%国産大麦で造るこの蔵元さんは「国産麦だからこそ出せる旨さがあります。原料産地は明確に説明出来る、重要な事だと思います」と語ります。貯蔵場には樽貯蔵された焼酎が、えも言われぬ香りを漂わせていました。夜神楽(よかぐら)が奉納される秋の大祭には、高千穂の蔵の焼酎が新青竹の筒に入れお燗した“かっぽ酒”で、来た人皆に振る舞われるとのことです。風土に根づいた伝統の習わしが今も生きています。
宮崎の本格焼酎の30%は芋焼酎が占めていて、県蔵元数の約50%がある日南・串間・都城・児湯(こゆ)地域が芋焼酎の本場です。黒麹を使ったこくのある味わいの銘柄で、一躍芋焼酎のトップメーカーとなった都城の蔵元には、黄金千貫が山となって積まれていました。「原料を冷蔵保存する工夫で年間生産を行っています。霧島の地下水を用い、地域の契約農家や自家農園で生産された芋を原料として造り、地元で支持されてきました。今後もこのことを念頭において、この地で造り続けていきます」と蔵元さんは話します。
宮崎は現在38の蔵元が本格焼酎を造り、本格焼酎1人当たり消費量は全国第2位、消費支出は第1位、出荷量は第3位、造り、大いに飲む、鹿児島に並ぶ焼酎王国です。原料の多彩さも群を抜いていて、芋・そば・麦・米・もち米・玄米・とうもろこし・栗、最近では特産のピーマンなどを原料とする焼酎も造られています。
また、これまで酒通を唸らせるような味わいの銘柄も宮崎から数々誕生し、新風を巻き起こしてきました。地元でしか販売されていない小さな蔵の本格焼酎にも、キラリと光る深い味わいがありました。多彩な原料を用い地元で愛飲されながら、新たな味わいを創り出す宮崎は、オリジナリティに富み、エネルギー溢れる強靱な焼酎王国でもあります。今後もどんな焼酎が誕生するか、楽しみです。